みなさまこんにちは。
さて、自動車業界では世界的なSUVブームが巻き起こって久しく、中国や米国では新車販売の4割以上がSUV、欧州でも3割以上がSUVとされています。一方で、走行安定性やデザインよりも、機能性や室内空間の広さが重視される日本においては、1990年代から背の高いミニバンがファミリーカーの主流派の地位を獲得し、中型車から小型車、果ては軽自動車にまで一気に浸透。休日の行楽地ともなれば右を向いても左を向いても箱型のミニバンで溢れかえるという、まさに「ミニバン大国」の名を欲しいままにしてきました。
しかし、世界的なSUV人気の大波は島国ジャパンの沿岸にも押し寄せ、2010年代後半からは国産車のSUVモデルも次々に登場。「ミニバンよりSUVの方がカッコよくね?」「ミニバンよりSUVの方が運転しやすくね?」「そもそもミニバンってオヤジくさくね?」といった消費者の後押しを受けて、まるでオセロのようにミニバンがSUVに置き換わっています。
あれだけたくさん走っていたBセグミニバンのシエンタ、いったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
いよいよSUVブームに火がついた日本。これまで3列シートが必要だからとミニバンを買っていたユーザー層にまで「いや、ゆうても3列目はたまにしか使わないんでしょ。ならSUVで十分よ」といわんばかりに、3列シートを備えた6〜7人乗りのSUVラインナップも充実してきました。
かくいう私も子供3人の5人家族。7人乗りの必要性をヒシヒシと感じながらも「いかにミニバンを買わずに生き延びるか」を追求してきた我が身としては、必然的に7人乗りの3列SUVが視野に入ってくるのです。
そしてふと立ち止まって考える。「その3列目、安全なんですか?」と。
つい最近、新発売のメルセデス・ベンツGLBに試乗して、コンパクトな3列SUVとしての商品力の高さに唸らされ、購買意欲がかなり高まってしまったのですが、その一方で「3列目の衝突安全性はきちんと確保されているのか」という点は非常に気になるんですよね。
「何言ってんの。自動車って昔から衝突試験をガンガンやって安全性高めてるでしょ?交通事故死者数が毎年減り続けてる理由の一つは、明らかにそこでしょ?」というご指摘はもっともです。
自動車の歴史は衝突安全性向上の歴史といっても過言ではなく、ここ20年の衝突安全性の高まりは目を見張るものがあります。1998年式のトヨタ・カローラと、2015年式トヨタ・カローラ(オーリス)が正面衝突する試験映像を見てみましょう。
両車の差は一目瞭然。古い方のカローラはAピラーから屋根まで大きくひしゃげ、運転手の生存空間が潰されていることが分かります。試験速度は時速64kmですが、動画の注記には「ドライバーはおそらく致命傷を負った」と記載されています。
一方の2015年式カローラは、エンジンルームが大きくえぐられているものの、運転席の空間はしっかりと確保されていることがわかります。
また、昨今は側面衝突安全性も高まっていて、静止車両に側面から時速50km程度でデフォーマブルバリアを衝突させて乗員の保護性能を評価しています。(欧州は32km/h側面ポール衝突試験もあり)
車の前面にはエンジンルームがあって、車両の前端と運転席の間には一定の空間があります。この空間を使って衝突の衝撃を吸収したり逃したりして、乗員ができるだけ損傷を受けないように工夫するわけです。衝撃を受け止めて反発する部分と、部材を潰しながら衝撃を吸収する部分を巧妙に分けてキャビンを潰さずに衝撃を減らすことが求められます。そして、エアバッグやシートベルトプリテンショナーといった補助装置を駆使してさらに安全性を高めるわけです。
これは常に経済性や利便性、商品性と表裏一体なのです。強度を高めれば高めるほど、車重は重くなり燃費は悪化し、材料費も高くなる。これを消費者が買える価格で作らなければなりません。
自動車の衝突安全性は、こちらを立てればあちらが立たずという厳しい制約条件の中で、メーカー各社が膨大な時間と費用と知見を注ぎ込みながら、針に糸を通すよりも困難な条件を潜り抜けてきた、まさに先人たちの英知の結集なのです。
電気自動車の時代になれば部品点数が大幅に減って組立も容易になるから新規参入が相次いで既存の大自動車メーカーは立ち行かなくなるって言ったのはどこのどいつなんですかね。電気自動車であっても求められる安全基準はまったく変わらないのですが、その試験は誰が受けるのでしょうか。まったく、寝言は寝てから言ってほしいですよね。
さて、ここからが本題です。自車の後ろを走行する車から追突された場合、最後方の3列目においても、後面衝突安全性は大丈夫なのでしょうか。なにせ車両相互事故で最も多いのは追突(約40%)なんですよ。
乗用車の3列目は、大人が座ると頭からリアウインドウまで数cm、座面からリアバンパーまで数10センチなんていうのもザラです。そんな構造で後続車から追突されたときに、3列目の乗員の安全はしっかり確保されるのでしょうか。
結論を言うと、世界中のどこにも、後続車から追突された場合の乗員の生存空間の保護性能に関する安全基準は存在しないのが現状です。
えっ、ないの?
残念ながらありません。また、国交省の資料をあたっても、現在の安全性強化の焦点はADASを駆使した「そもそもぶつからない車」に主眼が置かれていて、近い将来に後面衝突に関する規制が強化されることはなさそうです。
ただし、追突された車両の被追突部分の安全性に関する基準がまったく存在しないわけではなく、主に後面衝突安全試験での頚部保護性能試験と燃料漏れ防止基準の2つがあります。
日本の現在の後面衝突安全試験は「時速約36kmで追突された想定で運転席と助手席の乗員の頸椎の損傷を評価する」というものです。「想定」というのは、実際に試験車両をぶつけるのではなく、座席を勢いよく引っ張って追突状態を再現するんですね。こんな感じです。
また、燃料漏れ基準については、日本の保安基準では「重量1.1トンの台車にフルセットで時速50kmで追突された際に燃料漏れしてはいけない」という法規があります。フロントエンジン車の場合、一般的に燃料タンクは後部座席の下の後輪車軸の前方に置かれていますので、追突されても後輪車軸までで衝撃を受け止めればよいことになります。
しかし、ミニバンやSUVの3列目シートは、通常は後輪車軸の真上か後ろにあります。後輪車軸の後方のクラッシャブルゾーンにかかってしまうわけですが、この状態で追突されても大丈夫なのでしょうか。
燃料漏れ基準により追突対策がされているとはいえ、言うまでもなく、燃料漏れをしないことと3列目の乗員が安全であることはイコールではありません。極論をいえばキャビンはペシャンコに潰れてしまっても燃料漏れさえ起こさなければ、保安基準上は構わないわけです。
この頸椎保護性能と燃料漏れ基準は、欧州でもほぼ同様(ECE基準の後面衝突台車速度は時速35〜38km)です。そして、米国も頚部保護基準については日欧と同等と思われますが、燃料漏れ基準については世界でもっとも厳しいとされる「70%のオフセット状態で時速80kmで追突された際に燃料漏れしないこと」となっています。
繰り返しになりますが、日欧米いずれの追突基準も、あくまでも燃料漏れを起こさないための基準であって、居住空間の確保については求めていないことには注意が必要です。各メーカーは社内基準に基づいて安全対策を講じているとされますが、日本車と欧州車については、追突された場合の試験映像などもほとんど公開されていないので、実態は分かりません。
そうは言いながらも、米国の80km/h追突試験の動画を見る限り、やはり燃料漏れを防ぐことを目的とした安全対策は、後列の居住空間の確保にも有効と思われます。
現時点で後面衝突における3列目の乗員保護を明確に謳っているのは、ボルボXC90とマツダCX-8くらいですが、CX-8は事実上北米版のCX-9を縮小したモデルであることから、米国の80km/h衝突規定への適合と3列目の乗員保護を同時に追求したことは理に叶っているのでしょう。
ということで、3列目の衝突安全性を本格的に求めるのであれば、アメリカ車か、アメリカの安全基準を満たした日欧車ということになります。
この視点では、現時点で米国仕様が存在しないプジョーやシトロエンなどのフランス車は消え、日本メーカーの国内専用モデルも候補から外れるということになります。北米に展開しているドイツ車、ボルボ、ジャガーランドローバーや、グローバルで車種を統一せざるを得ないマツダは意外にも安心、ということでしょうか。もちろん、トヨタや日産、ホンダで北米展開しているモデルもOKです。
もっとも、乗員の死傷を伴う追突事故の8割は衝突時速40km以下で起きているそうですので、それよりも高い速度での衝突事故における安全性をどこまで求めるかにもよるわけです。
つまり、高速道路を法定速度で走行中に時速200kmで暴走するポルシェに追突されるリスクをどう評価するか、です。もちろん、より重量の重いバスやトラックに追突されると速度差は低くても衝撃は大きくなりますので、考えればきりはないのですが。
百聞は一見にしかず。高速度で追突されたらどうなるか、映像を見てみましょう。米国基準の時速80kmで重さ約1.4トンのディフォーマブルバリアに衝突されるというものです。
まずはボルボXC90。時速80kmで追突されてもキャビンはビクともしません。最強です。
XC90をもう1本。バスやトラックを模した鉄の壁に時速50kmで追突されても3列目キャビンは大きな損傷を受けてはいないようです。いやー、すごいなぁ。
こちらは北米版オデッセイ。全長5.1mの大柄な車両ですが、XC90より変形は大きいものの、3列目の乗員が致命傷を負うほどではないように見えます。
3列シートを備える全長4.9mの北米向けトヨタ・ハイランダー。こちらも3列目の生存空間は確保されていそうです。
ちょうど米国の3列SUVの追突試験コンピレーションがありました。やはりXC90の頑丈さが際立っています。
比較的小柄なSUVはどうでしょう。三菱アウトランダーがありました。全長4.7m弱ですが、こちらも大丈夫そうです。
国産小型車がこの速度で追突された場合の映像が見たいところですが、生憎そのような都合のよい素材はそうそう転がっていません。近そうなところで、先代マツダ・デミオはどうでしょう。こちらも米国の80km/hでの追突試験です。
うげぇ……。これでも燃料漏れは起こしていない=合格のようですが、後席の空間はかなり潰されてしまっています。
この速度で国内専用のミニバンとかが追突されたらどうなるか、気になりますよねえ。軽自動車ですが、ダイハツがウェイクの55km/h後面衝突画像を公開していました。

って、いやいやいやいや、ぶつかってる途中の静止画像じゃないですかw
この後どうなったんすかwww
まあ、さすがに「このあと後席キャビンはペシャンコに潰れました。チャンチャン」ということはないと思いますが、画像に映っているムービングバリアーの重量が、燃料漏れ防止基準に沿った1.1トンと同じものであるのかは気になるところです。
えっ?軽や外車はいいからマツダCX-9やCX-8の衝突試験動画を見せろって?いや、それが見つからないんですよね。
えっ、3列目の衝突安全性を確保したって高らかに謳ってるんだから、動画が公開されてないはずないだろよく探せよって?
いやー、私に言われても困るんですが、結構探したんですけど、ないんですよね。動画で見れば一目瞭然だと思うんですが、違うんですかね。
それでは、我が次期愛車の購入候補にのぼっているメルセデス・ベンツGLBはどうでしょうか。全長は4,640mmと、3列SUVとしてはコンパクトクラス。日本で標準装備される3列目シートは、欧米ではオプション扱いです。
GLBについてはEueoNCAPの動画しか見つからないので、後面衝突についてはわかりません。米国の時速80km追突基準は当然クリアしているはずですが、実際に試験映像を見てみないことにはなんとも言えなさそうです。
なお、メルセデスのプレス資料によれば、GLBは開発当初から3列目の乗員の安全性を考慮して設計されていて、乗員の頭上空間が取れる身長168cmまでであれば衝突安全性を確保しているそうです。また、標準装備のサイドエアバッグは、3列目も含めた全列に展開されるとのことです。
なるほど確かに3列目の乗員保護性能について考慮されているようですが、これはぜひ衝突試験映像の公開を待ち望みたいところです。
ということで、現時点の結論としては、メルセデスGLBの3列目の後面衝突安全性は、米国80km/h基準はクリアしているはずなので、ボルボXC90ほどではないにせよ、国内専用ミニバンやフランス車なんかと比べたら安全性は高そう(ただし日本仕様は補強材が省かれていたりしないことが前提)。おそらく乗用車に40〜50kmで追突されても生存空間が脅かされるリスクは低そう、確証は持てないけど、という感じでしょうか。
煮え切らないっちゃあ煮え切らないですが、まあやっぱり安全な車がいいよね。うん。
(参考資料)
[ベストカーWeb] マツダのCX-8の3列目は安心だ!! 3列目シートには子どもを乗せるのは要注意!?
[itmedia] マツダCX-8試乗 3列目は果たして安全だったのか?
[autoc-one] 軽最大の室内空間、抜群の見晴らしの良さを誇る新型軽「ダイハツ ウェイク」
[Genroq] メルセデス・ベンツ GLB に渡辺慎太郎が試乗! 今、大注目の小型SUVの実力とは?
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[マツダ] 新型CX-9の軽量・高剛性ボディーシェル
[Daimer] Media New GLB Body: Strong and safe
[国土交通省] 衝突時等における燃料漏れ防止の技術基準
[国土交通省] 車両安全対策検討会 令和元年度第2回車両安全対策検討会(2019.11.26)
[国土交通省] 諸外国のアセスメント
[UNECE] Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to the prevention of fire risks
[NHTSA] Evaluation of FMVSS No. 301, Fuel System Integrity, as Upgraded in 2005 to 2009


